蝉のいない夏

蝉のいない夏

あたりはしんと静まり返り、
草木は思い思いに伸びていく。

長い夏の日差しが、少し色あせた壁にやわらかく降り注ぐ。

ふと、子どものころの夏休みを思い出した。

昼ごろ、近くの湖へ出かけた。

道路を走る車はまばらで、窓の外の木々がゆっくりと後ろへ流れていく。

幹線道路を離れると、前にも後ろにも車の姿はなくなった。

道端の草は腰の高さほどまで伸び、風に揺れながら、少し黄色く色づき始めている。
その間には、紫色のブルーベルがいくつか咲いていた。

数軒の家は深い木立の中にひっそりと隠れ、道端には郵便受けだけがぽつんと立っている。

湖辺では、大人たちが砂浜や岩の上で日向ぼっこをし、
子どもたちは浅瀬ではしゃいでいる。

笑い声が、風に乗って聞こえてくる。

湖岸を歩き、平らな大きな岩を見つけてブランケットを広げる。

子どもたちは水着に着替えると、勢いよく湖へ飛び込んでいった。

私は松の木陰に立ち、
湖から吹いてくる涼しい風を受ける。

スタンドアップパドルボードの上を、
ゆっくりと進んでいく人。

小さなボートを湖の真ん中に浮かべ、
じっと動かない人。

ブランケットに寝転び、
木々の隙間から空を見上げる。

雲は、ゆっくりと流れていた。

ただ、
ここには蝉の声がない。